「馬鹿とハサミと数字は使いよう」という話

この10年くらいで「KPI」という指標が使われるようになりましたね。
KPIとは、設定した目標に対し、ある時点での達成度を測るための指標を指します。「目標売上を達成するためには、新規客を何人獲得する必要がある」といったものです。
KPIを設定するためには、ビジネスの設計図化が欠かせません。

「お試しサンプルの注文」→「本購入」→「2回目、3回目の購入」→「4回目以降のリピート購入」→「友人への紹介」

このような設計図があれば、通過点の達成度を測る指標を置くことができるというわけです。
これは、とても戦略的な発想ですが、使い方には注意が必要です。

もし、KPIを、「部下を管理するため」に使っていたら、部下は常に数字に追われるようになり、疲弊しモチベーションも創造性も破壊されてしまうでしょう。
実際に、このような使い方をしている企業を知っていますが、社員さんはゾンビのような顔で仕事をしています。
一方、社長は「最終目標を押し付けたら、社員は何をやっていいか分からず悩む。KPIを与えることで仕事がやりやすくなる」と意気揚々と話していましたが、仕事がやりやすくなるのは社長だけで、社員さんの悩みはいっそう深くなります。

KPIによる管理は、思考の集中力を阻害する危険性もあります。
「指標を定めることで集中力が高まるのでは?」と思うかもしれませんが、そうとは限りません。
自社の人間だけで設計図をコントロールできれば良いのですが、外部の人間…特に顧客が関わってくる場合は話は違います。顧客がその気にならないと設計図上を動いてくれませんので、「顧客の感情」と「KPI」の2つを意識しなければならなくなります。

人は2つのことを同時に見ることができません。下の絵は有名な「ルビンの壺」というトリックアートですが、この絵は、白い部分を見ると「壺」が観え、黒い部分を見ると「人が向き合った顔」に見えますが、人の脳は、「壺」と「顔」を同時に見ることはできません。

設計図は、顧客の満足と喜びがあり初めて機能します。KPIによる目標管理が強いと、数字ばかりを見て、最も重要な顧客のことがおろそかになるということです。

KPIを活用するなら、設計図の作成から運用までを、現場の人が携わることが欠かせません。
自分たちで作り、設計図がちゃんと機能しているか?を自分たちで測り、活動を改善するために使うのです。

「馬鹿とハサミは使いよう」と言いますが、KPIも同じだと思います。


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