急成長に憧れる危険性について。
世の中には数々の「V字回復」の物語がありますが、実は、その後に再び衰退した例は意外と多いんですよね。
その理由は、無理をすれば必ず反動が来るからですが、今日の記事では、そこに潜む、もう1つのリスク…「士気の低下」について触れたいと思います。
結論を先に出すと、V字回復や急成長は社員のモチベーション低下を生むということです。
まずは、こんな話から。
服が好きな人なら経験があると思いますが、10万円の服の購入を決断した後に、店員さんに、1万円のアクセサリーを勧められると「ついでに買うか」と財布が緩むことがあります。普段なら躊躇する1万円という金額が、10万円の案件の後だと安く感じてしまうんですね。
まあ、勧める店員さんは、それを承知で仕掛けてくるわけですがね。
この心理的効果を悪用した女子大生もいます。
卒業間近に、親に「妊娠してしまったかも」と打ち明けました。当然、親は「何やってんだーー!」と怒り心頭ですよね。
それから数日後に、親に「実は、ちゃんと検査をしたら妊娠していなかった」と報告します。親はホッとしますが、そのついでに「ごめんなさい…実は、留年が決まってしまったの」と打ち明けるのです。
妊娠に比べると留年が軽く感じるんですね。
こうした効果は、行動経済学では「参照基準点」という概念で整理しています。
10万円の買い物をすると、10万円が基準となり、1万円が安く感じる。逆に、1万円が基準になれば10万円に強い抵抗を感じるということ。
妊娠という事態に対しては、留年など軽い事故に感じるのです。
ここに、企業における、V字回復や急成長の危険性がはらんでいます。
V字回復や急成長の後には反動が生じ、業績の乱高下が起こります。
業績が良い時は、当然、賞与などで社員に還元する必要がありますし、リーダーなら、そうしてあげたいものです。
しかし、その後に下がった時に、えらく損をしたように感じるのです。
例えば、業績が良い時に40万円の賞与をもらえたといます。その後、業績が下降し30万円に下がれば損をした気になりますよね。
その後、再び業績がよくなり、賞与が35万円になったとしても、かつての基準が設定されたままだと満足はできません。

同じ35万円の賞与でも、前回40万円だった場合と、30万円だった場合とで、まったく感じ方が変わる、それが参照基準点の怖さです。
だから、業績の乱高下は働く人の士気に悪影響を及ぼすのです。
我が家の近くに、「年輪経営」で知られる伊那食品工業株式会社があります。年輪のように少しずつ成長することをよしとする哲学を持っており、かつての寒天ブームにも乗ることなく、自社のペースで着実に成長しています。
年輪経営は、参照基準点の視点から見ると、どんな効果があるでしょうか。
実は、参照基準点には「基準点から遠い値の方が心理的インパクトが弱い」という特徴があります。
例えば、同じ5万円でも、40万円が45万円になった満足感よりも、50万円が55万円になった時の方が満足度は「低い」のです。
「これじゃあ、持続的な賃上げの効果がないじゃん」と思われるかもしれませんが、賃金に動機づけされない方が、社員の創造性と自発性は向上することが分かっています。
↓詳しくは、こちらの記事をお読みください。
「トム・ソーヤー」から学ぶ自発性が生まれる職場づくり」
世に溢れるV字回復や急成長の美談に惑わされてはいけません。
着実に、顧客の信頼を積み重ね、年輪のように成長する商いをしたいものです。
同時に、無理はしていないけれども、幸運による特需があった時には、ケースバイケースですが、伊那食品工業のように「受けない勇気」も必要かも知れません。
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