経営は市場や顧客の攻略ではなく「人の気持ちに寄り添う技術」という話

だいぶ前の話ですが、ある日の新聞広告に「印刷ミスか?」と思わせる奇妙な広告が載りました。
まずはご覧ください。

朝日新聞のロゴ下の赤い部分に「今日は新聞配達の日」と題した、ホンダのバイク「スーパーカブ」の広告がありますが、向きがおかしいですね。
一般読者は誤植を疑いますが、ある職業の人には意図が伝わるのです。

それは新聞配達員です。
新聞配達員は、新聞にチラシを入れる際に、このような配置で新聞を置きます。

配達員の目には、「今日の配達も、お気をつけて」という温かいメッセーが飛び込んできます。
きっと、全国の新聞店で「ねえ、これ見て」という声が上がり、職場が明るくなったことでしょう。
流石ホンダ、粋ですね〜。

僕なんか、見た瞬間に涙腺が崩壊してしまいましたよ。これを見た日から、スーパーカブが単なる道具ではなく、スタッフの一員に思えましたもん。
僕もスーパーカブの愛用者でしたからね。

ちなみに、この広告は2018年の、朝日広告賞の「小型広告賞」を受賞しました。

私たちは、自社の商品を売りたいあまりに、つい、独善的に商品のアピールをしてしまいますが、それは得策ではないと思います。
商品が売れたという現象の背景には、必ず、それを買った「人」がいて、その人が「買うという行動を起こした」という厳然たる事実があます。
だから、商品を売りたいなら、人が「買う」という行動を起こすような「行動シナリオ」を描き、行動を促すようにエスコートをする必要があります。
エスコートとは、相手の気持ちに寄り添い、時と状況において最適な働きかけをすることです。

お店に入った瞬間に「何をお探しですか?」なんて言う店員さんがいますが、まったく寄り添えていないですね。

そういう意味で、件の広告は非常に優れていると思うのです。

最適なエスコートをするためには、相手のことを深く理解する必要があります。それは感情レベルでの理解です。
スーパーカブの広告には「寒くなってきましたね。カブは相棒としてしっかりやっていますでしょうか」と書かれています。
これが、バイクのスペックや「販売実績ナンバーワン」なんてことが書かれていた、ちょっと興ざめしますよね。

感情レベルで顧客を理解した好例として、福井県のスーパーマーケットがあります。
そのスーパーマーケットには「ゆっくりレジ」なるレジがあります。
これまでスーパーは、できるだけ素早くお会計を済ませる努力を重ねてきました。その結果、セフルレジが増え、電子マネーが普及し、ベルトコンベアに乗ったかのような効率性が実現しました。これも顧客に寄り添い生まれたサービスです。

そんな中、ゆっくりレジは「ある人たち」から大きな支持を得ているようです。
「その人」とはどんな人たちでしょうか。
想像力を膨らませて、「その人」の気持ちに寄り添ってみると、支持される理由が解ると思います。

相手の世界を覗き込み、喜びや不安、誇りや寂しさといった感情に触れた時、初めて「この人のために」という意欲が生まれます。
私たちは、市場や顧客を「攻略する」と考えがちですが、経営スキルとは顧客をコントロールする技術ではなく、自分が顧客の物語の一部になる技術だと考えますが、いかがでしょうか。
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