繁栄する会社は、顧客に『負い目』を残して帰す

「年輪経営」で知られる伊那食品工業株式会社の創業者、塚越寛さんが、先日お亡くなりになりました。
年輪経営の影響を受けた者として、心から御冥福をお祈りいたします。

年輪経営とは、樹木が年輪を重ねるように成長していくことを理想とした経営思想です。
無理な成長を目指すと「ムリ・ムダ・ムラ」が生まれます。過剰在庫やリードタイムの長期化が生じ生産性が落ちますし、いつも社内に歪みを抱えることになり、人間関係にも影を落とします。

年輪経営は、まさに繁栄の王道とも言える経営思想だと思います。

では、企業は具体的に何を積み重ねれば、年輪のように繁栄していくのでしょうか。
僕は、その鍵は「負い目」にあると考えています。

負い目とは「こんなにしてくれて申し訳ない」という感情です。それは否定的な意味ではなく感動や心地よさを含むものです。
買い手と売り手の関係で言えば、受けたサービスが、支払った代金を上回った時に生じます。要するに「期待以上」「お値段以上」ということです。

人は、受けたサービスと支払った代金の「差分」を埋めようと、店主にお礼の言葉を述べたり、中には「お釣りは要らない」といった行動を起こす人もいます。

ところが、中には差分を、売り手に返すのではなく、第三者に「送る」ことがあります。
例えば、Google評価に高評価を書き込んだり、友人に紹介するという形です。

第三者に差分を送る仕組みがあると、負い目を繁栄の原動力にすることができるのです。

それが上手く機能している料理屋があります。
僕の地元に、佳子内親王の誕生会で腕をふるった名料理人がいます。
友人から「驚くから行ってみな」と勧められて行ったのですが、まさに「神は細部に宿る」の如く、非常に繊細で素晴らしい料理に驚嘆しました。

食べ終わった時に感じたことは「こんなにしてくれて申し訳ない」という負い目でした。銀座であれば3000円以上はするであろうランチ御膳が1500円ほどなのですから。

負い目を抱きながら会計を済ませると、レジ横に、子ども食堂の寄付の案内がありました。一口300円なのですが、僕も妻も迷わず託しました。

僕に利他心があるからでしょうか。
そうではなく、対価以上の価値を受け取ってしまった負い目を、子ども食堂のチケットで精算したのです。
お店から受けた恩を、子どもたちに送ったということです。

ビジネス的な効果を検証するのも野暮だとは思いますが、同店は、子ども食堂により、地域からの信頼や働く人の士気向上、未来の顧客創造など、多くの恩恵を得ることになります。

同店に対し「値上げをすれば良いのに」と言う経営コンサルタントがいますが、等価交換になったらダメなのです。残るものがなければ成り立たない世界なのですから。

ビジネスは、商品、サービスとお金を交換する行為ですが、そこにプラスαの余剰分があると、負い目が生じ、新たな展開が広がる可能性があります。
余剰分にはお金をかける必要はありません。むしろ、お金で買えないものの方が価値があると思います。

ここで、とても重要なので強調しますが、同店はビジネス的な効果を狙っていないから年輪効果を得られるのです。
もし利得を狙っていれば「当店は子どものために…」といった宣伝をしますが、それを見た人々は、その宣伝をもってして負い目を精算してしまいます。
「宣伝したんだからチャラね」と。
そう思われた瞬間に年輪効果は解除されてしまうのです。

繁栄とは、数字を追いかけた結果ではなく、人の心に残した余剰価値が、静かに社会を巡り巡って返ってくる現象なのだと、僕は思うのです。 

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