経営を受け継ぐのは“人”ではなく“思想”…カリスマに依存しない承継のカタチ

後継者不足が深刻化しているようです。
東京商工リサーチの調査によると、2024年に後継者不在に起因する倒産が過去最多を記録したことが明らかになりました。また、経営者の平均年齢は63.7歳と高齢化も進んでおり、今後も後継者不在倒産が増えることが予測されています。

これを受け、M&Aの仲介サービスが活性化していますが、M&Aが成立するということは、収益的には魅力がある企業が多くあるということです。
にも関わらず後継者不足が起きるのはなぜでしょうか。

後継者不足の主な原因として、以下が挙げられています。

・少子化の進行
・経営環境の変化に対する先行き不安。
・親族に事業承継意欲がない。

日本の中小企業では親子間での事業承継が圧倒的に多いので、跡継ぎである子がいなければ事業承継が難しくなるのは当然です。しかし、子が1人もいない経営者は少ないので、それ以外の3つの原因に目を向けるべきでしょう。

少子化以外の原因をひとことでまとめると「先行きに不安を感じ、承継を躊躇しているうちに対策が遅れてしまった」ということになります。

不安の原因は先行きが見えないことばかりではなく、経営者としての資質に自信が持てないことも挙げられます。
僕の先輩社長の言葉を紹介します。

「息子には私と比べて求心力(カリスマ性)がない。息子もそれを理解している。こんな時代(変化が激しい時代)に、事業を継いだらイバラの道を歩むことになることを重々承知している。そこまでして社長になりたいとは思っていないんです」

カリスマ性とは稀有な才能ですので、それがあるリーダーから、ないリーダーへの交代は、いつかは訪れる宿命と言えます。
同時に、現代は、お金や名誉よりも自分らしく生きることを選ぶ人が増えていると言いますが、それは経営の世界も例外でないということです。

近年、僕のもとに、後継者問題の相談が増えていますが、僕の専門は自律型組織であり、後継社長の育成のコンテンツはありません。にも関わらず相談が来る。そこに対策の方向性を垣間見ることができます。

僕に相談をする社長は、カリスマ以外の求心力を組織に根付かせ、事業承継のリスクを低減しようと画策しています。
具体的には、カリスマに依存しない自律性の高い経営を模索しているのです。
そんなことは可能なのでしょうか。

それを解くにあたり「統制」のあり方を整理する必要があります。
統制には、主に「家柄」「官僚システム」「カリスマ性」があります。
家柄とは「紋所さえあれば場が収まる」という権威ですが、財閥ならともかく、そんなものは普通の中小企業の創業家は持ち合わせていません。

官僚システムは、リーダーに依存せずに、誰がやっても一定のクオリティが担保されるシステム重視の組織形態です。
しかし、言うまでもなく変化が激しい今の時代には合いません。

残るはカリスマということになります。
「カリスマに依存しない経営を模索しているんだが」と叱られそうですが、カリスマ=人間とは限りません。
その証左として、カリスマが亡くなった後にも思想が受け継がれている企業はたくさんあります。

そうした企業では、人物からカリスマ性を分離することに成功しています。

例えば、中部地方で小売業を営むある中小企業では、社長の急逝により、カリスマ性のない20代後半の息子が継ぎました。
新社長は、最初から自分がカリスマになることなど考えていませんでした。その代わり、就任直後から「自社が大切にしてきた思想、哲学、理念は何なのか?」という対話を社員と重ねてきました。
時に、先代の奥様にインタビューを行い、徹底して考えました。
人は、自分で考えると物事を自分事と捉えます。
この作業により、前社長からカリスマ性が分離され、その思想、哲学が組織に埋め込まれたのです。

結局、同社は3年ほどで、カリスマ不在のまま、思想を共有した強い組織に成長しました。社員たちは、自分たちが成長の立役者であるという自負を持って働いています。

もしこの社長が、自分がカリスマになろうとしたら、無理な背伸びをして、かえって求心力を失っていたかもしれません。

変化が激しく正解がない時代では、1人のリーダーの影響力で組織を牽引し続けるのは無理があります。カリスマと人物を分離することで、後継者の事業承継への心理的負担を軽減することが可能です。

最後に、老師のリーダー論を紹介します。

悪いリーダーは人々から蔑まれる。
良いリーダーは人々から敬われる。
最高のリーダーは人々に「私たちがやった」と言わせる。

2がカリスマリーダーだとしたら、件の若社長はカリスマの上を行く経営者なのかもしれませんね。
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※カリスマに依存しない経営へ。
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