部下が失敗から立ち直るために、アドバイスや慰めよりも重要なこと

先日「待つ」をテーマに記事を書いたところ、想像以上に反響があり、その重要性を再確認したところです。

「待つ」というリーダーシップ

一方で、「待つって難しいよね」という反応も多く、多くの人が悩んでいることも分かりました。
今日は、続記事として「回復を待つ」というテーマを考えたいと思います。

ここで言う「回復」とは、失敗からの精神的な回復を指します。
回復までのプロセスには三段階あるということを解明したのは、ウィリアムズ・ブリッジズという臨床心理士です。
ブリッジズは、失恋、死別、リストラなど、人生の転機を迎えた人を数多く診てきた中で、次の一歩を踏み出せる人は、過去にケリをつけた人…つまり「終わらせることができた人」いうことに気づきました。
始まりの問題ではなく終焉の問題いうことです。

これは非常に大きな発見だと思います。
私たちは、転機を乗り越えるためには「始め方」の問題を重視します。例えば、コンサルタントの現場では、新しいスタートを切る際に「48時間以内に◯◯をする」という風に、簡単に踏み出せる第一歩を決める「ベイビーステップ」という手法を用います。

しかし、僕の経験では、多くの人が第一歩を踏み出さないか、踏み出しても第一歩で止まってしまっています。

どうやら私たちは、始める前に終焉が必要らしいのです。
だから「クヨクヨするな」とか「早く気持ちを切り替えろ」というアドバイスは必要ないのです。

リーダー、マネージャーは、部下が失敗した時には、終焉まで待つという心得が必要です。
より具体的には、終焉と立ち直りの間にある「宙ぶらりんの期間」を大切にすることです。例えば、失恋から立ち直るためには、何もできないモヤモヤした期間が必要で、その期間中に内省が行われ、過去にケリをつけることができるのです。

先日、トランポリン体操選手の西岡隆成選手が、ラジオ番組で、自身の立ち直り経験を語っていました。
西岡選手は、パリ五輪で日本人初のメダルの期待を背負って出場。しかし、第一回目の演技で痛恨のミス。続く2回目でもミスをし、予選敗退に終わりました。
その時の感想を「疲れもせず終わった」と評し、サポートしてくれた方に申し訳ないという罪悪感を抱えたまま帰国しました。

番組で、インタビュアーが「どのように立ち直ったのか?」と尋ねると、西岡さんは次のように答えました。

「ガッツリ休んだ。1ヶ月くらい家からも出ないで過ごした。”このままじゃヤバいな”と思うまで休んだ」

「1ヶ月も?」と思うかもしれませんが「たった1ヶ月で」というのが正解だと思います。
僕が30代の頃、社運を賭けて立ち上げた新規事業に失敗した時には、半年間も何もできずに放浪したことがあります。
会社にも行かず、毎日、行くあてのないドライブばかり。
半年ほど経ったある日、ふと、尊敬する先輩社長に会いに行こうと思い立ち、アポも入れずに車を走らせました。
忙しい方なのですが、その時だけは会社にいて、僕が「つい、ふらっと来ちゃいました」と言うと「そうか」と答えました。
ふらっと行くような距離じゃないんだけどね。

先輩は「何かあったの?」とも聞かず、僕のつまらない世間話を聞き続けてくれました。
先輩になら新規事業の失敗のことも話せると思い、通販に失敗したことを打ち明けると、何の評価もアドバイスも説教もせず、ただ頷きながら聴いてくれました。

ひとしきり話し終わり、先輩の会社を出る時、とても足取りが軽くなっていたことを今でも覚えています。
きっと、僕は、先輩に話したことで終焉を迎えることができたのだと思います。

リーダー、マネージャーは、「次はどうする?」と答えを急ぎがちですが、必要なことは、宙ぶらりんの期間をつくることだと思います。
それは、無駄でも停滞でもなく、心が静かに整理を始めるための必要なプロセスです。

前回記事で紹介した「機が熟すのを待つ」「人材が育つのを待つ」に併せ、「回復を待つ」ことも意識してみてはいかがでしょう。
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