実は自分のために行っている「あなたのため」が招く悲劇
「社員のため」は、本当に社員のためでしょうか。
もし、自分のため…見返りを期待しての戦略だとしたら、いつか大変な損失を生む可能性があります。
先日、ある会合で、新入社員の家に家庭訪問をしている社長の話を聞き「そこまでやるか!」と大変驚きました。
外国人社員も雇用しており、その国にまで行っているとのこと。
なかなか真似ができないですよね。
その話を聞いた同席者は、「ウチは日本人だけだから可能だ。そこまでしたら、その社員は頑張ってくれるだろう」と興奮していました。
恩を恩で返してくれるだろうという期待です。
しかし、件の社長はまったく違う動機で家庭訪問を行っていました。
新入社員のご家族は、「これから我が子が働く会社はどんな会社だろうか?ブラック企業だったらどうしよう」と心配していると思います。
その社長は、ご家族に安心していただきたく、自社の理念やビジョンといった、本来は外部の人に伝える必要のない情報まで伝えています。
また、ご家族に会う=新入社員のルーツを辿ることになり、社員との関係が深まりますし、「ご家族のためにも自分が頑張らねば」という気持ちにもなると言います。
そこには見返り…取り引きの意図はありません。
もし、最初から見返りを求める戦略だったらどうなるでしょうか。
当然、社長は、家庭訪問をしたことを、ここぞとばかりに新入社員に伝えるでしょう。そして、一刻も早く見返りを求めたくなります。
しかし、一人前になるまでには時間がかかります。その間は、受けたものを返すことができません。
社長に見返りを求める意図があると、言葉の端々からそれが伝わります。事あるごとに「私はあなたに施した。でも、あなたは返してくれない」という暗黙のメッセージが伝わるのです。
社員は、その間ずっと罪悪感に苛まれることになります。
これは一種の呪いです。
「私はあなたに施した。でも、あなたは返してくれない」というのは、相手をがんじがらめに縛り支配する呪いなのです。
件の社長は、家庭訪問を取り引きではなく「贈り物」として行っています。
しかも、恩は社長に返さなくて良い。
そうなれば、他の誰かに、あるいは次の世代の誰かにバトンタッチしていく可能性があります。
私たちが親から受けた恩を自分の子に送っていくように。
社長は、家庭訪問を「経営理念の体現」と言います。
そもそも経営理念とは「贈り物」です。
そもそも理念は「他者のため」「社会のため」という利他を言語化したものです。自分(自社)から誰かへという一方通行の贈り物です。
贈り物を受けたご家族は、恩を直接社長に返すことは出来ませんので、我が子を応援するという形で恩を送ることになるでしょう。
そして、社員は、受けた恩を顧客や仲間に送ることになります。
この恩送りが繁栄のエンジンになる。
取り引きは「私とあなた」という閉じた関係ですが、「送る」(贈る)行為は、他の誰かに、次の世代の誰かに広がっていきます。
だから、長期にわたり会社が良くなっていくのだと思います。
こうした原理で駆動している企業が実際にあるのです。
「社員のため」が取り引きの意図を持った欺瞞になっていないか、改めて注意が必要だと思った出来事でした。
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