AIを使いこなせる人とは、AIではなく「人間に詳しい人」だと思う

以前、ある学者が、子どもたちに向けて「ゲームのクリエーターになりたければ、ゲームやデジタル技術ではなく、文学に詳しくなりなさい」と言っていました。

ゲームは仮想世界で物語を体験するものです。つまらない物語を優れた技術で描いても、つまらなさが浮き彫りのなるだけです。

私たちは、道具立てに過ぎないものを目的に置いてしまうことがあります。
20年ほど前に「ネットビジネス」という言葉が登場しました。当時は、とても先鋭的な匂いを感じたのですが、なんてことはない、インターネットでモノを売っているというだけのことです。
それならば電話で受注する商いであれば「電話ビジネス」とでも言うのでしょうか?

最近ではAIですが、これも道具立てに過ぎません。
道具は「手段」であり、「理想」(目的)があって初めて活用できます。目的がなければ単なるオモチャです。

AIは、理想をセッティングすれば、世界中に散りばめられた情報を編集し、実現のための最適解を提示してくれます。

ところが、日本人は理想の設定が苦手と言われています。その理由は、理想はずっと外国が提示してくれたからです。美しい家具があるマイホームで洋食を食べながら歓談し、食後はテレビを観てくつろぐ。休日はマイカーでお出かけするという豊かな生活を、外の人が提示してくれ、その実現手段の研究に集中すれば良かったのです。

教育がそれを後押ししました。五教科偏重の教育は、設定された正解に効率よくたどり着く能力ばかりを鍛えます。独自の正解を構想する訓練を受けていないのです。

こうした教育を受けた人ほど、他者に正解を求める傾向があります。
例えば、「衰退産業の新聞屋さんが生き残れる道は?」といったことをAIに尋ねるのですが、その構想こそ人間の仕事ですよね。
構想を描くのは人間で、その実現にAIの力を借りるのが本道ですが、「AIに理想を尋ね、実現法を人間が考える」という珍妙な逆転現象が起きるのです。

AIが賢くなるほどに、理想をAIに訊けば、世界中の新聞屋さんが「同じ答え」を持つようになります。そもそも経営は独自化・差別化を目指すものなのに、それに反する均質化を促してしまうのです。

AIを使いこなせる人とは、理想を描く力に長けており、理想と現実の差分を埋める方法をAIから導き出せる人だと考えます。
そして、理想とは「願望」をぶち上げることだと考えます。
決して「未来予測」ではありません。

愛知県岡崎市に160年の歴史を持つ「三浦太鼓店」があります。6代目の三浦和也氏は、今から数年前に、地域に新しい祭りを作りました。多くの地域で、祭りが、その本来のあり方(自治)から外れ、行政の管理下に置かれています。そのあり方が嫌で、地域の人を巻き込み、ゼロから祭りを作ってしまったのです。
詳細はこちらをご覧ください。

「これからは地域の祭りが見直されるだろう」という未来予測をして立ち上げたわけではありませんし、AIに「21世紀の地域のあり方を教えて」と聞いたわけではありません。

「今のあり方は嫌だ」「こういう地域が良い」という純粋な衝動に突き動かされて始めた活動なのです。

地域の人たちは、この運動に参加している内に、6代目が言う意味を理解します。
「やってみて分かる」ということは、つまり「やってみなきゃ分からない」ということで、まさに「正解がない」ということです。

もう、世界一物質的な豊かさを手にした私たちに「外の人」は正解を示してくれません。
独自の豊かさを自分たちで設定しなくてはいけないのです。

「じゃんじゃんモノを捨てて新しいものを買い、経済を伸ばそう」「他人からの羨望の眼差しを独占しよう」なんてことを豊かだと思う人は、もはやいません。

幸せな働き方とは?
モノに満たされた人々が求める「心の充足」とはどんなものか?
小中学生が自らの命を断つ悲劇がゼロの社会とは?

より成熟したな豊かさや充実といったものを構想する力が求めらます。

つまるところ、人間の幸福に詳しい人になることだと考えるのです。


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