「数値目標はありません」と宣言する企業から学ぶ、新時代の経営哲学
2025年の元日の信濃毎日新聞に「かんてんぱぱ」で知られる伊那食品工業株式会社の一面広告が掲載されました。
そこには、私たちの常識とはかけ離れたことが書かれており、多くのビジネスパーソンに驚きを与えました。

『数値目標はありません』
❚ 目標管理の概念が生まれた時代背景
「目標管理」は、1954年にピーター・ドラッカーが、著書「現代の経営」の中で提唱し世界中に普及しました。その手法の要諦は、経常利益から売上高や、それに必要な販売個数や売価などを逆算することです。
僕も新聞店の社長時代に目標管理を徹底した時期がありました。細かところでは「一日あたりの訪問件数」にまで落とし込みましたが、何一つ成果を出せなかっただけでなく、経営はより悪化してしまいました。
ドラッガーの手法は間違っていたのでしょうか。あるいは僕が使い手として未熟だったのでしょうか。
実は、「目標管理の考え方が、当社が置かれている状況と合っていなかった」ということだったのです。
目標管理が提唱された当時は、経済成長期前夜でした。GDPが伸びる要因は「モノが売れる」です。そして、モノが売れる背景には「不便」があります。
「寒さをしのぎたい」「家事が大変」「移動に時間がかかる」…不便を解決することでビジネスが成り立ち、GDPが増えていったわけです。
そして今、私たちが切望した「モノの充足」というミッションはほぼ達成しました。
そうなると、目標管理という道具は使い勝手が悪くなります。
❚ 成熟期では目標管理が使いづらくなる。
そもそも経営は「価値を作ること」と「展開すること」の2つの要素で成り立ちます。レストランで言えば、美味しい料理をつくり、お店で提供すること。小売業で言えば、良い商品を仕入れ、店頭で売ることです。
成長期では、欠乏に悩む生活者が多いのに対し、供給者が少なかったので、供給者側が主導権を持ちました。
この時代の重要課題は、経営の効率化です。
つまり、品質管理と、作り始めてから市場に流すまでの時間(リードタイム)の短縮であり、これに優れていた日本企業は世界の市場に躍り出ました。
この時代では、成果を生むプロセスがシンプルで制御しやすかったので、利益逆算式の目標管理はすごく使い勝手が良かったのです。
ところが、今は生活者に主導権が移りました。十分に豊かになり「何を買うか?」ではなく「買わない」という選択肢を持っているのです。
❚ 「いい仕事」の積み重ねが、年輪のような繁栄を実現する
成熟社会の生活者は、買うなら、品質の良さだけでなく、感性をくすぐるものを選びますし、「誰から買うか?」も重視するようになりました。
成熟社会に入ると、これまでの「品質管理とリードタイムの短縮」から「感性価値をつくり、顧客との関係性を耕し売る」ということに命題が変わります。
この状態で、利益逆算式の目標管理を行うのは非常に難しい。
利益などの「定量」と、感性価値や関係性といった「定性」の因果を短期的に結ぶのはとても難しいのです。
にも関わらず、単年度で利益逆算の目標管理を行えば、時間がかかる大事がおろそかになります。
私たちが欲しい、名声や利益といったものは「副産物」です。
名声は、誠実に生きた副産物。
利益は、お客様に貢献した副産物。
現代人は、副産物を目的にする人や企業を嫌います。
名声を得ようとする人を支持しませんし、利益を最優先する企業から買わないのです。
伊那食品工業株式会社の広告にある「年輪を重ねるように、着実にいい仕事を積み上げること」という言葉は、単なる道徳律ではなく、成熟社会における繁栄の理(ことわり)だと思います。
今いる顧客にフォーカスし、日々、いい仕事を積み重ねることが、名声や利益といった副産物を生み、またそれが次なる繁栄のエンジンになる。
とてもサステナブル、そして幸福な経営だと思いますが、いかがでしょうか。
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