1人も見捨てないことを最後まで諦めなかった中学生から自律型組織を学ぶ

人には生得的に積極性と成長意欲が備わっている…自律型組織を目指す上で欠かせない人間観だと思います。
性善説か性悪説かで言えば、前者です。
社員1人1人が本来持っている力、プラス、これも全員に備わっている社会性を活用した組織開発が指示ゼロ経営なのです。

しかし、そのためには「待つこと」が求められます。
まだ十分に自律性が育っていないと、動き出すのに時間がかかります。
待てずに口を出してしまうと、せっかくの動きを止めてしまいます。

今日は事例を紹介しながら「待つこと」について考えたいと思います。

人と人の集団の力を信頼して待つ

指示ゼロ経営の原理は集団のメカニズムです。
集団はミッションを持ち、その実現を望めば自然発生的に役割を決め行動する力を持っています。
ただし自律性がまだ育っていない集団では時間がかかります。
それを待てるかが成功の鍵を握ります。

人と人の集団の力を本当に信頼できれば待つことができると思います。
とは言っても、決して穏やかな気持で待てる人はそうはいません。
僕を含め多くの人は心配でハラハラしながら待っているというのが現実だと思います。
辛抱の要る話です。

僕はビジネス分野以外に、教育分野(学校)でも自律型チームの育成をやっています。
それが「夢新聞ワークショップ」です。
夢新聞とは、自分の夢が叶った未来の日付の新聞を自分の手で描くワークショップです。
主に小中学校に招かれるのですが、僕は子どもたちから人と集団の力を教えてもらいました。
ワークショップでは子どもたちに「制限時間までにクラス全員、1人残らず夢新聞を完成させる」というミッションを与えます。
その意図は、夢は決して1人で叶えることはできないからです。
人には長所も短所もありますから、それを補い合えばみんなの夢が叶いますし、それをしないと誰の夢も叶わないという悲しいことになってしまいます。
子どもたちに任せた以上、僕も担任の先生も一切口出ししませんし、何を訊かれても答えません。
すべて自分たちの力で挑戦してもらいます。

集団はミッションを持つと、自律的に役割を決め達成に向け行動をします。
その姿は人の心を打ち、とても感動します。

先日、とある中学校で夢新聞を行いました。
新1年生36人のクラスを僕が担当しました。
事前に、担任の先生から相談を受けていました。
中に特別支援学級の子がいるが、その子にはどう関わればいいか?という質問です。
特支の子は普段は別の教室で授業を受けているので関係性ができておらず助けてもらえないのでは?という心配です。

僕は「本当にそうなったら先生がカバーしてください」と伝えました。
ところが、担任の女性教員は最後まで「信頼して見守る」というスタンスを取ったのです。

最後の最後まで「1人も見捨てない事」を諦めなかった

ワークショップがスタートすると、ほぼ例外なく仲間に書き方の確認をして騒然となります。
それが一段落すると自分の制作に集中します。
ある程度書けた子、完成した子がまだ終わっていない仲間を助けに行きます。

先日のクラスでは特別支援学級の子がずっと孤立して誰にも関わってもらえませんでした。
僕はすごく気になりました。
「誰か、彼を助けてやってくれ」…心の中でそう叫びました。
担任の先生もずっと辛そうな表情で見守っていました。
そして僕のところに来てこう聞きました。
「“助けてあげて”というお願いもしてはいけませんか?」と。
それはご法度です。
その判断を自分たちでするのが自律性だからです。

残り時間30分…みんな自分の制作に集中し、誰もその子を助けない。
残り20分…完成した子が仲の良い友達を助けるが、彼のところには誰も行かない。
刻一刻とタイマーがカウントダウンしていきます。
段々と焦りが教室内に漂います。

残り15分…相変わらず彼は1人で何もしていません…が、僕や担任が近づくと、目で助けを求めます。
でも、僕たちは何もしません。

残り10分を切った時…
大きなテレビモニターの陰で担任の先生が僕を呼びました。
何だろう?と思い行くと、先生は涙を浮かべ、震える声で言いました。

「彼、助けてもらってる…あの子が助けに行っている…」

見ると、ある男子生徒が彼の机の前に立ち、一生懸命教えていたのです。
その直後、その子は別の子をつかまえて2人体制で支援を始めたのです。
その姿を見て、僕も涙が溢れました。

結果的にミッションは達成できませんでしたが、達成は目標であって目的ではありません。
失敗しても良いのです、そこから学び成長することが目的なのだから。
達成はできなかったけど、素晴らしいクラスです。
だって「誰1人見捨てないこと」を最後まで諦めなかったのだから。

さらに驚いたことがありました。
最後に、全員に夢新聞の発表をしてもらいますが、発表の順番も自分たちで決めてもらいます。
いつまで経っても彼は立ち上がりませんでした。
「発表は難しいかな?」と思った瞬間…
堂々と立ち上がり、夢新聞をみんなに見せている彼の姿が目に飛び込んできました。

万雷の拍手
仲間からの「おめでとう〜」の声

少し恥ずかしそうな、でもとても誇らしげな笑顔をしていました。

夜に担任の先生からメールが届きました。

今日は本当にありがとうございました。夢新聞、すごく楽しかったです。私がずっと気にしていた新聞が書けなかった生徒は、特別支援学級の生徒で、普段の授業はクラスにいない生徒でした。あの子が出来ないことを他の子は当たり前だと思って助けないかも、、、みんな自分の新聞が大事で他人なんて目に入らないかも、、、とずっとドキドキしていました。その生徒を最初に助けに行った生徒は、体育館で話を聞くときなど、真っ先に下を向いてだらけてしまう生徒でした。今日の夢新聞がなかったら、私は助けに行った彼の足りない面ばかり見て、三年間過ごしたかもしれません。そして、彼の持っている素晴らしい面は、クラスの子誰もが持っているかもしれない面だと、改めて気づかされました。

僕が「発表したのにも驚きましたね」と返信すると、こう返って来ました。

あんな姿も初めて見ました。私、今日の一時間だけで、ずっと彼らを信用できます。中学生の可能性を信じられます。

素敵な先生です!

今回のクラスは結果的にミッションは達成できませんでしたが、それは意思決定が遅かっただけだし、それを生徒たちも振り返りの時間で言っていました。

きっと次は達成できます。

僕はこれまで夢新聞を通して、子どもから大人、企業で約8000人の人、300以上の集団を見てきましたが、ほぼ例外なくこうなります。

それは僕の影響力ではなく、本来持っている集団の力によるものです。

「集団は賢い」…だから信頼して待つ。
自律型組織はリーダーの心構えで決まる、そんなことを改めて感じた夢新聞ワークショップでした。

それでは今日も素敵な1日をお過ごしください。

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