挑戦の勇気は“危機”と“安心”の両立から生まれる。

以前、「ビジネスは打率1%でも大丈夫」という記事を書いたところ、多くの方から「勇気が出た」という声が届き、書いてよかったなぁと思う一方で、僕にはまだまだ挑戦が足りないと思いました。

「成功確率1%でも大丈夫。『やってみよう!』の一言が未来を拓く」

成功確率1%でも、100回挑戦した場合にヒットが出る確率は63.4%。200回では86.6%の成功確率になります。
経営は打率では決まらず、1回のヒットを出すことが大切だという話でした。

そういう意味では、ポストイット(付箋)で知られる「3M」は素晴らしい。

ポストイットは、「しっかり接着しない接着剤」という失敗作がもとで生まれた製品だという話は有名ですが、創業期にも同様の、いや、それ以上のエピソードがあるんですね

3Mは、もともと鉱山業界の会社でした。Minnesota Mining and Manufacturing(ミネソタ鉱山工業)の3つのMをとって社名にしました。
創業直後、アルミニウムの採掘を目的として鉱山を購入しました。しかし、実際に採れたのは、不純物が混じったクズアルミだけだったそうです。
多額の借り入れがあり窮地に立たされた同社は、唯一の資源であるクズアルミの用途を考え抜きます。
その結果、クズアルミを粉にして紙に塗りつけ、サンドペーパーにするというアイデアが生まれます。
これが大ヒットとなり、その後の急成長へと繋がります。

まあ、聞くだけで冷や汗をかくような話ですが、同社は今でもこの精神で経営をしています。
例えば、研究者に対し、勤務時間の15%をどんなことにでも自由に使える裁量を与えていますが、同時に「3年以内にリリースされた新商品が売上の一定比率を上回っていなければならない」というルールを設けています。

「追い詰められると火事場の馬鹿力を発揮する」をゆるく経営に実装しているのです。危機の設定の仕方が上手ですね。

3M社がどうしているか知りませんが、挑戦の勇気を持つためにはセーフティネットの整備も欠かせません。
というのも、人は不確実性に直面した際に「確実な何か」がないと精神を健康に保つことができないからです。
このことを心理学では「セキュアベース」と呼びます。
もともとは幼児の発達過程の研究から生まれた概念で、幼児が未知の領域を探求するにはイザという時のセーフティネットが必要だということを明らかにしました。
それはもちろん親の庇護ということになりますが、セキュアベースがあるから挑戦できるのです。

これは大人でも同じで、挑戦する文化を作りたければ、企業は失敗に対するセキュアベースを整備する必要があります。

それは「失敗しても再挑戦できる」という文化ではないでしょうか。

私たちは、失うものよりも得るものが大きな時には果敢に挑戦できますが、ひと通りの豊かさを得てしまうと、行動原理が「失敗しないように」と守りに転換します。
一度失敗すると、その後のキャリアが不利になる、失敗に不寛容な日本企業の人事文化は、豊かな時代の必然と言えますが、豊かさの定義が変わり、再び挑戦のフェーズに入る時には大きな足かせになります。

文化を変える時期に差し掛かっていると思うのです。

最後にまとめると…

▢急激な危機ではなく、緩やかな危機を設定する。
▢「失敗しても次がある」と思える安心感を醸成する。

危機と安心という、相反する要件のハイブリッドが人に挑戦意欲と何度でも立ち上がる勇気を与えるのだと考えます。

3Mの事例とセキュアベースの概念を、あなたならどのように自社の経営で実践するでしょうか。
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