イノベーションは「モノ」ではなく「人間」の側にあるという話
20年間使ってきたガスコンロが壊れ、最新のものに買い替えました。
ガスコンロなんか、これ以上進化できないところまで進化し尽くしていると思ったのですが、とても機能が充実しているんですね。
しかし、家族からは不評で、いつも文句を言われています。
僕は、可哀想なガスコンロを見て、「進化、成長の方向性を間違ってはいけない」と思ったのです。
ガスコンロが不評なのは、余計な機能がついているからです。
火災防止ということらしいのですが、勝手に火力を弱めるのです。
しょっちゅう「温度が上昇しています」とアナウンスが入り、勝手に火力を弱めるのです。その都度、火力を上げていたら、しゃぶしゃぶ鍋のお湯がいつまで経っても沸騰せず、夕飯が遅れてしまいました。
きっと、この機能はオフにすることができると思いますが、分厚い説明書の中から、その方法を探すのが嫌で、放っています。
この話を友人にしたら、「ウチのエアコンはお喋りなんだよ〜」と教えてくれました。
やれ天気がいいから布団を干せだの、そろそろ窓を開けて空気を入れ替えろだの、提案すると言います。
調べたら、誕生日にお祝いのメッセージを言ってくれる家電もあるとか…笑
以前に、大手電器メーカーに勤める方が、「日本企業は、機能を足すことはできても引くことができない」と言っていました。
電器屋さんに行くと、製品に、機能の有無が◯✕で表示されているPOPがありますよね?
あれに✕がつくことが許せないと言うのです。
近年、こうした「うるさい」という課題に対し、カームテクノロジーという概念が生まれました。
その名の通り、生活の中に自然と溶け込む形で利便と快適を提供する、穏やかな技術を指します。
何でも盛り込むことが進化ではないと考えます。
僕は、進化やイノベーション、パラダイムシフトは「モノ」ではなく「人間」の側にあると思っています。
モノのスペックや機能が充実することではなく、人間の生活が良くなったり、環境が良くなったりすることだと思うのです。
SONYの創設者である、井深大さんは、晩年に、社員に対しパラダイムシフトについてこんな事を言っています。
「デジタルだ、アナログだ、なんてのは、ほんと道具だてにしか過ぎない。単刀直入に人間の心を満足させる、そういうことではじめて科学の科学たる所以があるので、そういうことを考えていかないと21世紀には通用しなくなる」
ウォークマンは、「音楽を持ち歩く」という人間の側にある価値を創るために、録音機能をカットしました。
イノベーションをモノの側に置いていたら、とても決断できないことでしょう。
便利になることと、幸せになることは、必ずしも一致しません。
人の心に寄り添っていないと、恩着せがましい行為になってしまうかもしれません。
大切なのは、「誰の、どんな喜びのための進化か?」という問いを忘れないこと。モノではなく、人に寄り添うこと。
今日も元気にお喋りするガスコンロを見て、一度、立ち止まって考えてみる必要があると思ったのです。
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