成長の呪縛を手放した企業が手にする、ほんとうの豊かさ
現代の若者には想像がつかないかもしれませんが、今から65年前、政府は「所得倍増計画」なるものを宣言しました。
岸信介内閣のもとに1960年に閣議決定され、7年後に実現しました。
政府は当然、目標達成を自分たちの手柄にするわけですが、実は、政府が主導したわけではなく、経済が伸びる時代を政治が後押ししたというのが正しいところではないでしょうか。
よく、事業の盛衰をエスカレーターで例えますよね。
成長分野を「上り」衰退分野を「下り」と。
当時の経済成長率は10%を超えていましたので、7年ほどで国民の所得は倍になる計算です。当時は、国全体が急角度の上りエスカレーターに乗っていたのです。
その成長を支えたのは旺盛な物欲で、物欲の源は「不便」でした。
例えば、当時はテレビが普及しておらず、持っていない人は、持っている家に集まり、ちゃぶ台を囲んでプロレスや紅白を観ていました。
一般家庭に電話が普及するのは1970年代以降で、それ以前は、電話を持っている家で「借り電話」をする習慣がありました。
電気炊飯器が普及したのは1960年代で、それまでは「かまど」を使い、火を見張りながら団扇であおいで炊いていました。
ちなみに僕はリアルタイム世代ではありませんよ 笑。
そんな時代に、不便を解消する魔法の道具が登場したわけですから、行列を作って買い求めたわけです。
今は、ひと通りのモノに満たされたので、以前のような成長は期待できません。先進国のGDPの成長率は、1960年代をピークに鈍化の一途を辿っていますし、金利も低水準を推移しています。
あまり注目されていない事実ですが、インターネットの登場をもってしても、GDPの成長率の鈍化に歯止めをかえることはできていないのです。
AIが登場しても状況は変わらないと思います。
もう、一部の分野を除き、以前のように全体が底上げされることなどあり得ないことなのです。
それでも、当時の高揚が忘れられなく、いまだに「取り戻す」というキャッチコピーが頻繁に使われていますが、取り戻せないものに執着すると苦しむだけだと思います。
もう、エスカレーターから降り、別の評価基準を持つ時期に差し掛かっているのではないでしょうか。
人間で言えば、肉体的な成長が止まったら、精神的な成長に価値を乗り換えるように、企業でも量から質への価値観のアップデートが求められると考えるのです。
具体的には、成長一辺倒だった価値基準を、幸福度などを加えた独自のモノサシをつくることだと考えます。
以前、ホワイト企業大賞の審査でインタビューした企業は「穏やかに働く」というキーワードのもと、成長呪縛からの解放を目指していました。
同社では、穏やかに働くために、顧客との関係性をベースに手堅い商いをしており、売上目標を年々更新することもなく、社員に「さらに上へ」と強要することもなく、会社は十分な利益を、社員は十分な賃金を得ながらマイペースに経営をしています。
それで何も困っていないのです。
今、私たちには、かつて夢見たユートピアを生きています。
私たちに必要な思考は「取り戻す」のではなく、「描き直す」ということではないでしょうか。
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